断髪

人は頭髪をぶった切る際、鏡に映る自己をがんがんに凝視、俺ってかっこいい、などとほざきながら、少しでも気に食わない部位があると担当の美容師を徹底的に罵倒して、鬼姑のごとく己が満足いくまで何度でも繰り返し修正、やり直しを要求するものであります。ところがそれというのはみな、こんなにかっこいい俺をさらにかっこよくする為に民衆が努力するのは当然のこと、という驕り高ぶり、自己陶酔の気持ちを持っているからで、自分の様な卑屈の塊はいつも、すいません、今日はなんかギャッと切ってシャーっとするみたいな感じの雰囲気で全体的にどうでもいいです、などと控えめに曖昧な注文をするとあとは美容師の人とのぎこちないトークにひたすら耐え、こんな感じでどうでしょ、などと言われた時にはもう気に入るも入らないもない、なんでもいいから帰らせてください、と絶叫して釣りももらわず美容院を後にするのが常である。万事そんな調子であるから頭髪をぶった切った後というのは大抵、俺の言ったのと全然違うじゃねえか、あの野郎、ころす、などと言い、次行った時は絶対俺のかっこよさを出し切れるまで帰らない、などと神に誓うのだけれども、1週間も経つとそんな決意も己の頭髪への違和感も完全に忘却し、やがて頭髪ぶった切りの際にまた同じ過ちを犯すのです。ミスチルも言ってます。人は悲しいくらい忘れていく生き物だと。今日のこの気持ちを次に髪切り行く時まで忘れぬためにこれを記します。トゥモロネバノウズ。